スライドを何度も作り直した。構成を練り直した。言葉を選んだ。それでも、プレゼンが終わったあとに「なんか刺さらなかったな」という感覚が残る——そういう経験、ありませんか?

原因はスライドにあるのではありません。多くの場合、伝わらない理由は「出力」にあります。どんなに中身が良くても、声・身体・意識の3要素が整っていなければ、言葉は相手に届かないまま空気に消えていきます。

22年間、俳優として舞台に立ち続けて気づいたこと——「伝わる」というのは才能ではなく、設計できるものです。今日はその話し方のコツを、3つの要素に絞ってお伝えします。

伝わるプレゼンの要素1 — 声の設計

「もっと大きな声で話してください」とよく言われる方がいます。でも、大きければいいのかというと、そうではない。音量は声の要素の一つに過ぎないからです。

声を設計するというのは、5つの要素をコントロールするということです。

声の5要素——音量・音程・速度・音色・間

  • 音量(大小) — 聞こえるかどうかではなく、どこを強調したいかで使い分ける
  • 音程(高低) — 高い声は軽さや明るさ、低い声は重さや誠実さを伝える
  • 速度 — ゆっくり話すほど、言葉に重みが乗る
  • 音色 — 息っぽい声、芯のある声、共鳴した声——同じ言葉でも印象が変わる
  • 間(ま) — 沈黙は弱さではなく、聴衆に言葉を受け取らせる時間

プレゼンで特に意識してほしいのは、「大切なことを言うとき、声を下げる」という逆説です。

重要なポイントになると、つい声が上がって早口になる人がいます。緊張や興奮がそうさせる。でも聴衆の側からすると、声が上がってテンポが速くなると「情報量が多い」と感じて処理が追いつかなくなります。

大切なことを言うときこそ、意識してトーンを落とし、速度を緩める。これだけで、聴衆の集中が一点に集まります。

速度についても同じです。「ちょっと遅すぎるかな」と自分で感じるくらいのペースが、聴衆にはちょうどいい。自分の話す速さは、自分では正確に把握できないのです。収録して聞き直すと、ほとんどの人が「思ったより早口だった」と気づきます。

声は出すものではなく、届けるものだ。音量を上げることと、届けることは、別のことである。

伝わるプレゼンの要素2 — 身体・姿勢

「話し方」というと声のことだけを考えがちですが、実はコミュニケーションの大部分は、言葉以外の情報で伝わっています。表情、姿勢、手の動き、視線——これらは無意識に相手に受け取られています。

ボディランゲージ——姿勢・アイコンタクト・ジェスチャー

まず姿勢。プレゼン中に腕を組んでいたり、身体が横を向いていたり、猫背になっていたりすると、言葉がいくら良くても「閉じている人」という印象を与えます。開いた姿勢——両腕を自然に下ろし、胸を向け、足を肩幅に開いて立つ——これだけで聴衆への受容性が大きく変わります。

アイコンタクトも同様です。スクリーンを向いたまま話す人、手元の原稿を見ながら話す人。でも聴衆は、「自分に向かって話しかけられている」という感覚がなければ、他人事として聞いてしまいます。

一人を2〜3秒見る。次の人を見る。それを繰り返すだけで、聴衆全員が「自分に話しかけられている」という感覚を持ちます。テクニックとしては単純ですが、意識してやり続けるのは案外難しい。

ジェスチャーについては、「やりすぎだと思うくらいのエネルギーがちょうどいい」と私はよく言います。身体は正直で、内側のエネルギーが低ければ、どれだけ言葉を飾っても身体から「やる気のなさ」が漏れ出てしまいます。逆に身体が開いてエネルギーが高ければ、多少言葉が詰まっても「この人の話を聞きたい」という雰囲気が生まれます。

舞台俳優がリハーサルで何度も確認するのも、同じ理由からです。台詞を覚えることより、身体が正しい状態にあるかどうかのほうが、実は重要なのです。

伝わるプレゼンの要素3 — 意識の置き場所

声も整え、姿勢も整えた。それでも「なんか上滑りしている感じがする」という状態になることがあります。技術は磨かれたけど、存在感がない、というか。

その原因のほとんどは、意識が自分の中に向いていることです。「うまく話せているかな」「次に何を言うんだっけ」「この資料の順番、合ってるかな」——自分のことを考えながら話している状態では、どれだけ技術があっても「伝わる」にはなりません。

三つの輪——意識の置き場所を広げる

演劇には「三つの輪」という概念があります。

  • 第一の輪 — 意識が自分の内側にある状態。独り言、内省、緊張しているとき。
  • 第二の輪 — 意識が目の前の一人に向いている状態。対話、個別の説得。
  • 第三の輪 — 意識が場全体に広がっている状態。プレゼン、スピーチ、空間を使う表現。

プレゼンで「伝わる」を実現するには、第三の輪が必要です。でも緊張すると、意識は自分の内側(第一の輪)に引っ込んでしまいます。

訓練するのは簡単ではありませんが、意識するだけでも変わります。プレゼン中に「この部屋全体に届ける」と意識する。会場の隅の人にも声が届いているかを感じながら話す。「場全体を自分が引き受けている」という感覚を持つ。

これは「オーラ」とか「カリスマ性」といった曖昧なものではありません。意識の向け方というれっきとした技術です。そしてこの技術は、繰り返しの稽古によって身体に入れられるものです。

「伝える」から「届ける」へ。その一文字の違いが、プレゼンの質を大きく変える。

この3要素は稽古で身につく

声の設計、身体の使い方、意識の置き場所。この3つを読んで「なるほど」と思った方は多いと思います。でも、「なるほど」と「できる」の間には、大きな崖があります。

知識として持っているだけでは、本番のプレゼンで使えません。緊張したとき、初めての相手の前に立ったとき——それでも自然に出てくるためには、身体に染み込ませる反復が必要です。

練習と稽古は違います。練習は正解に近づくための反復。稽古は身体に入れるための反復。プレゼン前日に一度リハーサルするのは練習です。毎週少しずつ身体に蓄積していくのが稽古。

The First Passionのオンライン稽古場では、毎週ライブで「声・身体・意識」の3要素をワークします。「今週のプレゼンがうまくいった」という方も、「また自分に戻ってしまった」という方も、続けながら少しずつ積み上げていくための場所です。

あなたのプレゼンが変わる最初の一歩は、「知ること」ではなく「やってみること」から始まります。ぜひ一度、体験してみてください。