提案書の冒頭を「弊社は〇〇の会社です」から始めている人は多い。あるいは商談の最初に「私どものサービスについてご説明させていただきます」と切り出す。実はこれ、選ばれない提案の典型的なパターンです。
なぜ選ばれないのか。理由はシンプルです。相手は自分のことに興味があって、あなたのことには興味がないからです。「弊社は」から始まる提案は、相手が主役ではなく、あなたが主役になっています。主役を間違えると、話を聞いてもらえません。
キャスティングを変えるとは何か
演劇の世界では「キャスティング」という概念があります。どの役を誰が演じるか。ストーリーの質は、キャスティングで大きく変わります。
ビジネスの提案にも、キャスティングがあります。誰が主役で、誰がどんな役割を担うか。この構造を意識していない人が多い。そして無意識のうちに、自分を主役にしてしまっています。
映画や物語のヒーローズジャーニーという構造を知っていますか。スター・ウォーズ、ハリー・ポッター、ライオンキング——ハリウッドの名作はほぼすべてこの構造に沿っています。主人公(ヒーロー)が問題に直面し、賢者(メンター)の力を借りて成長し、問題を乗り越える。
ビジネス提案に置き換えたとき、誰をどの役に配置すべきか。
- 主人公(ヒーロー)——顧客
- 賢者(メンター)——あなた
- 道具(武器)——あなたのサービス・商品
- 敵・問題——顧客が直面している課題
選ばれる提案は、相手が主役の物語だ。あなたは相手の冒険を助ける賢者でいい。主役になろうとした瞬間に、選ばれなくなる。
これをキャスティングと呼ぶのは、ストーリーにおける役割の配置だからです。どれだけ良い俳優でも、役が合っていなければ良い演技はできない。ビジネスの提案でも同じです。どれだけ優れたサービスでも、主役を間違えると伝わらない。
「弊社は〇〇の会社です」の何が問題か
「弊社は〇〇の会社です」という冒頭が問題なのは、情報の順序が間違っているからです。
聞いている相手の脳は「これは自分に関係あるか」を最初に判断します。自分に関係あると判断した場合にのみ、その後の話を真剣に聞きます。「弊社は〇〇の会社です」から始まると、「これはこの会社の自己紹介だ」と判断されて、本気で聞いてもらえません。
研究によると、人間が話の最初の30秒で「この話は自分に関係あるか」を判断し、そこで「ない」と判断されると、その後の情報はほとんど頭に入らないとされています。ストーリーが記憶に残りやすいのは、事実の22倍と言われています。しかし、相手が主役のストーリーでなければ、その効果は発揮されません。
冒頭の一文を変えるだけで前のめり度が変わる
では、どう変えるか。具体的に見ていきましょう。
Before(選ばれない冒頭)
「弊社は2015年設立の、プレゼンテーション支援の会社です。これまで200社以上にご支援してきた実績があります」
After(主役を顧客に変えた冒頭)
「今日この場にいらっしゃる方の多くが、『話した内容は悪くなかったのに、なぜか決まらなかった』という経験をしたことがあるのではないでしょうか」
どちらが「聞こうとする気持ち」を引き出しますか。Afterの冒頭は、相手の経験・悩みから始まっています。「これは自分の話だ」と感じさせる。だから前のめりになる。
その後で初めて「そのために私たちはこういうことをしています」と自分の話をすると、「なるほど、だからこの会社が必要なのか」という流れで聞いてもらえます。
ヒーローズジャーニーをビジネス提案に応用する
提案全体の構造を変えるとき、ヒーローズジャーニーは強力なフレームワークです。
- ①普通の世界——顧客の現状を描く(「今、こういう状況ですよね」)
- ②冒険の呼び声——解決すべき課題を明示する(「でも、こういう問題が起きていませんか」)
- ③賢者との出会い——あなたが登場する(「私はこういう観点でお手伝いできます」)
- ④変容のプロセス——サービスの内容(「具体的にはこういうことをします」)
- ⑤新しい世界——顧客の未来(「これにより、こういう状態になれます」)
この順序で提案を組み立てると、相手は「自分の話として」聞き続けられます。主語が顧客だから、最初から最後まで「これは自分のことだ」という感覚が続きます。
提案書の主語を「弊社は」から「あなたは」に変えるだけで、読まれ方がまったく変わる。これがキャスティングを変えるということだ。
今持っている提案書の冒頭を見てください。最初の一文の主語は何ですか。「弊社」であれば、まず顧客の言葉に変えてみてください。それだけで、相手の前のめり度が変わります。
提案が通らない理由は、内容の問題ではないことが多い。キャスティングの問題です。主役を顧客に渡した瞬間、提案は「選ばれるもの」に変わり始めます。