「場数を踏めば上手くなる」という言葉を信じて、プレゼンの機会を増やしてきた。でも、何十回やっても同じところで詰まる。同じような緊張をする。同じ反応しか返ってこない。そういう経験、ありませんか。
プレゼンが上達しない理由を「経験不足」だと思っている人は多い。でも実は、場数ではなくフィードバックループの有無が上達の差を作っています。この違いを理解するだけで、これからの練習の質がまったく変わります。
「場数」という思い込みの罠
場数を踏むことで上手くなる技術もあります。でも、プレゼンや話し方は違う。正確に言うと、「ただこなすだけの場数」では上手くならない。
考えてみれば当然です。毎回同じ状態でやれば、同じ結果が出るだけです。筋肉が間違ったフォームで動くことを覚えてしまっているのに、そのフォームのまま回数を重ねても、間違ったフォームが強化されるだけです。
スポーツでは「悪いフォームでの反復練習は逆効果」というのは常識です。プレゼンも同じ。何を変えるかわからないまま場数を踏んでも、同じ失敗が繰り返されるだけです。
俳優は「本番の回数」で上達するのではない。稽古でのフィードバックループが、俳優の出力を変えていく。
私が22年間関わってきた演劇の世界では、「本番の数」よりも「稽古の質」のほうがはるかに重視されます。毎日稽古をして、演出家からフィードバックをもらい、翌日また同じシーンを違う方法で試す。この繰り返しが、俳優の出力を変えていきます。
フィードバックループとは何か
フィードバックループとはシンプルです。
- やってみる
- 記録・観察する
- 何が問題かを具体的に特定する
- 一つだけ変えてやってみる
- また記録・観察する
この繰り返しです。「やってみる→振り返る→変える」の循環が回っているとき、人は急速に上達します。逆に「やってみる→終わる→また別の機会にやってみる」では、振り返りと修正がないため、同じパターンが繰り返されます。
プレゼンに置き換えると、フィードバックループを回すために最も手軽な方法は録画して見返すことです。自分のプレゼンを録画する人は少ない。見返すのが怖いから、という理由が多い。でも、これが最大の損失です。
なぜ録画が怖いのか
録画を見返すのが怖い気持ちは、私もよくわかります。稽古場でビデオを見た俳優が「自分の演技が気持ち悪くて見られない」と言うのはよくあることです。
でも、見ないことのコスタは高い。自分が「うまくできた」と思っているシーンが、実は全然伝わっていなかった。そういうことは頻繁にあります。感覚と実態がズレているのに、そのズレを修正するデータがない。これが「場数を踏んでも上達しない」状態の正体です。
プレゼン上達のための具体的なフィードバックループ
では実際にどうするか。以下の4ステップを1サイクルとして回します。
Step 1 — 録画する
プレゼンの練習を、スマートフォンで録画します。本番の会議やセミナーも、可能であれば録画しておく。最初は見返すことよりも「記録する習慣」を作ることが先です。
Step 2 — 音を消して見る
これは稽古場で私がよく使う方法です。録画を音声なしで見ると、言葉に頼らずに何が伝わっているかが見えます。目線はどこを向いているか。身体が緊張しているか。表情は動いているか。声のトーンの情報がない分、身体の出力だけが見えてくる。
Step 3 — 課題を一つだけ特定する
録画を見てたくさんの問題点に気づくことがあります。でも、次の練習で直す課題は一つだけにする。「目線を手元に落とさない」「重要な言葉の前に間を置く」「声が上がるタイミングを逆にして落とす」——一つに絞ることで、変化が明確に確認できます。
Step 4 — 変えた一点だけに意識を向けてやり直す
一つの課題を意識して、同じプレゼンをもう一度やってみます。また録画して、Step 2に戻ります。このサイクルを3回回すだけで、先週の自分と今週の自分では出力が変わっていることが実感できます。
「フィードバックをくれる人」がいるとさらに速い
自分で録画を見返すフィードバックループは効果的です。でも、自分では気づけないことがある。それは「自分のクセ」です。自分にとって当たり前になっていることは、録画を見ても見えにくい。
俳優が演出家を必要とする理由はここにあります。自分の外側から、客観的に「今のそれがどう見えているか」を伝えてくれる存在がいることで、フィードバックの質が上がります。
「あなたの話し方が気になっているのは声が低すぎるからではなく、重要な言葉のときに目線が落ちるから」——こういう具体的なフィードバックは、自己録画だけでは出てきにくい。でも、言われた瞬間に「あ、そういうことか」と気づいて、次の瞬間から変えられる。
場数は「量」の話だ。フィードバックループは「質」の話だ。量だけ増やしても、質が変わらなければ出力は変わらない。
プレゼンが上達しないと感じているなら、これ以上場数を増やす前に、フィードバックループが回っているかどうかを確認してみてください。次の一歩は、今日のプレゼン練習を録画することから始まります。
「見返すのが怖い」という気持ちがあるなら、それはフィードバックループを回す準備ができている証拠です。怖くて当然。でも、そこから逃げていることが、上達しない最大の理由になっているかもしれません。